2024年12月、アメリカで大手企業のCEOが殺害されたとされる事件で、容疑者を支持する声が若者を中心に数多く上がりました。遠い国の話に聞こえるかもしれませんが、その根底にある「理不尽なシステムへの極度の不満」は、私たちにとって決して他人事ではありません。
そう、「ブラック企業」に代表されるような、働く人を心身ともに追い詰める職場環境です。最新の研究は、このような過酷な環境が生み出す「燃え尽き」が、人の考えを危険な方向へ歪めてしまう可能性を指摘しています。
「使い捨て」の絶望が「過激な考え」に変わるまで
研究によれば、ブラック企業での過重労働やパワハラによって心身がすり減り、まるで自分が「使い捨て」の部品であるかのように感じてしまうと、人は生きる意味や目的を見失いがちになります。
この理不尽な状況から抜け出したい、失われた人間としての尊厳を取り戻したい、という切実な思い。その心の隙間を埋めるかのように、「腐敗した社会や搾取する側を力で正す」といった過激な思想が、魅力的な救済策に見えてしまうことがあるのです。
危険なのは「暴力の容認」という空気
もちろん、これは「ブラック企業で働く人が暴力的になる」という単純な話ではありません。本当に危険なのは、過激な行為を「追い詰められたのだから仕方ない」「むしろ当然の報いだ」と容認してしまう「空気」が社会に広がることです。
現在、日本の従業員の約4人に3人が燃え尽きを経験していると言われますが、ブラック企業の問題を考えれば、これは決して大げさな数字ではありません。一部の企業の問題だと見過ごしているうちに、社会全体の分断を煽り、安定を蝕む土壌が作られてしまうのです。
最大の防御策は「脱・ブラック企業」― ただし条件付き
この危険な連鎖を断ち切る最大の防御策は、言うまでもなく、企業が「ブラック企業」とは真逆の経営を行うことです。従業員をコストや部品としてではなく、価値ある「人間」として尊重し、その貢献にきちんと報いること。これに尽きます。
しかし、研究は一つ重要な注意点を明らかにしています。それは、このサポートが「手遅れになる前」、つまり従業員が深い絶望感や不信感を抱く前に提供されなければならない、ということです。一度壊れてしまった信頼関係を、後から取り戻すのは非常に困難です。
もはや「労働問題」ではない
ブラック企業の問題は、もはや単なる「労働問題」ではありません。それは、働く人々の心を蝕み、社会全体の安定をも揺るがしかねない、危険な「歪み」です。
従業員の心が燃え尽きてできた「空白」。その空白を、仕事へのやりがいや仲間との信頼感で満たすのか。それとも、社会への不満や過激な思想に埋め尽くされるのを放置するのか。今、日本の企業と社会はその選択を迫られています。