ネットであげ足をとるコメントをしたり、真剣に話す人をわざとちゃかしたり。そういう意地悪、つまり「性格が悪い」行動をしたことはありますか? そんな性格の悪い人格の持ち主ほど、実は、陰謀論を信じやすいかもしれません。
実は、この「性格が悪い」「意地悪い」という心理が、人が陰謀論を信じるようになる上で、重要な役割を果たしているかもしれない――。そんな、少しドキッとするような研究結果が、学術誌『Journal of Social Issues』に発表されました。
「意地悪さ」と「陰謀論」の知られざる関係
まず、この研究における「意地悪さ(Spitefulness)」とは、単に性格が悪いということではありません。それは、「他人を傷つけたり、困らせたりすることで、不公平な状況をならしたい」という、誰かを引きずり下ろしたいという欲求を指します。
研究チームは、1,000人の参加者を対象に調査を実施。その結果、「意地悪さ」のレベルが高い人ほど、陰謀論を信じやすい傾向があることが、明確に示されました。
では、なぜこの2つが結びつくのでしょうか。
研究を主導したデビッド・ゴードン氏は、次のように説明します。
「陰謀論は、専門家の意見や科学的なコンセンサスを否定するための『道具』として機能します。権威あるものを否定することで、『他人を引きずり下ろしたい』という意地悪な欲求を満たすことができるのです」
つまり、科学的な事実を否定し、「専門家が言っていることは嘘だ」「裏で何か企んでいるに違いない」と考えることは、自分より優位に立つ人々への反撃の一つの形、というわけです。
なぜ、人は意地悪になり、陰謀論に惹かれるのか?
研究によると、人がこうした「意地悪」な心理状態に陥りやすいのは、自分が社会的に不利な立場にいると感じたり、将来に不安を感じたり、自分の価値が認められていないと感じたりするときだといいます。
さらに、人が陰謀論に惹かれる背景には、伝統的に3つの心理的な欲求が指摘されてきました。
知りたい(認識的欲求):物事の明確な原因や理由を知りたいという欲求。
安心したい(実存的欲求):安全で、自分の存在が脅かされない環境を求める欲求。
認められたい(社会的欲求):社会の中で重要な存在でありたいという欲求。
今回の研究では、これら3つの欲求が満たされないときに生まれる不満が、「意地悪さ」という心理的な反応を引き起こし、その結果として、陰謀論を受け入れやすくなる、という心のメカニズムが示唆されました。
研究者の一人、ミーガン・バーニー氏は、「人々が意識的に『意地悪になってやろう』と考えて陰謀論を信じているわけではありません。むしろ、社会に対する不満が、無意識のうちに人々を意地悪な心理状態にさせ、陰謀論に耳を傾けさせてしまうのです」と解説しています。
本当の解決策は、社会のあり方そのものに
この研究結果が示す最も重要な点は、陰謀論の問題を解決するためには、単に「正しい情報を伝える(ファクトチェック)」だけでは不十分だということです。
なぜなら、その根底には、人々に不安や不公平感、孤立感を感じさせる社会的な問題があるからです。
ゴードン氏は、「もし陰人々の不満の現れだと理解するならば、偽情報と戦うことは、経済的な不安や社会的な不平等といった、より大きな問題に取り組むことと切り離せません」と結論づけています。
陰謀論の広がりは、個人の知識不足の問題だけでなく、社会が発する「SOS」のサインなのかもしれません。私たち一人ひとりが安心して暮らせる社会を築くことが、結果的に偽情報に強い社会を作ることにも繋がる、とこの研究は教えてくれています。