エスカレーターの片側を空ける習慣は、急いでいる人のために通路を確保する配慮として、日本だけでなく世界中の多くの主要国で見られます。しかし、この慣習には問題点も指摘されており、近年では見直しの動きも出てきています。たとえば、名古屋市では1年前からエスカレーターでの事故防止を目的に、立ち止まって乗ることが条例で義務づけられました。
エスカレーター歩く、歩かない問題について、海外の事例から考えてみましょう。
エスカレーター「片側空け」、世界のエチケットは?
多くの国では、エスカレーター利用者が立ち止まる場合は片側に寄って、もう片側を歩く人に譲ることがマナーとされています。しかし、どちら側を空けるかは国や地域によって異なります。例えば、イギリスやアメリカでは右側に立ち左側を空けるのが一般的ですが、オーストラリアやニュージーランドではその逆です。日本でも、大阪では右側に立つ一方、東京では左側に立つのが一般的となっています。
片側空けの問題点と新たな試み
片側を空ける慣習は、急いでいる人の移動をスムーズにするメリットがある一方で、以下のような問題点も指摘されています。
エスカレーターの機構への負担: 片側だけに負荷がかかり、故障の原因となる可能性があります。
安全性への懸念: 歩行中の転倒や衝突事故のリスクが高まります。
こうした問題を受け、一部の交通機関では、エスカレーターの両側に立つよう呼びかける動きが出ています。例えば、東京メトロではすべての駅でポスター掲示による啓発活動を行っています。
ロンドン交通局の実験:輸送効率向上と安全性確保の両立は可能か?
2016年、ロンドン交通局(TfL)はホルボーン駅で、エスカレーターの両側に立つよう乗客に求める実験を行いました(ちなみにこの実験、まきこまれた乗客たちからは非難轟々、怒りの声があがったとのことです)。ホルボーン駅は特に混雑が激しい駅であり、年間約5300万人の乗客が利用します。この実験は、エスカレーターの長さが23.4メートルと長く、歩いて上る人が少ないという特徴を考慮して行われました。
実験の結果、両側に立つ方式では、従来の片側を空ける方式に比べて、平均して毎分151人の乗客を運ぶことができました。これは、通常のエスカレーターの115人と比較すると、輸送能力が約30%増加したことになります。これにより、ピーク時のエスカレーター前の行列も解消されました。
しかし、TfLはその後、カナリーワーフ駅など他の駅でも同様の実験を実施しました。その結果、エスカレーターの長さが短い駅では、両側に立つ方式にすると輸送能力が低下することが判明しました。これは、エスカレーターが短い場合は、多くの人が歩いて上ることを選ぶためだと考えられます。
また輸送能力があがった事例でも、乗客が歩いた場合、歩かない、それぞれの場合の乗ってから降りるまでの到達時間の比較ではない、ということもポイントだと思います。
最適なエスカレーター利用方法とは?
エスカレーターの片側を空けるか、両側に立つべきか、最適な利用方法は一概には言えません。利用者の安全確保と輸送効率向上を両立するためには、エスカレーターの長さや混雑状況などを考慮した上で、適切なルールを設定し、周知徹底していく必要があります。
ロンドン交通局の実験は、エスカレーターの利用方法について新たな視点を与えてくれました。長いエスカレーターでは両側に立つことで輸送効率が向上する一方、短いエスカレーターでは逆効果になる可能性があるという結果は、今後のエスカレーター利用に関する議論において重要な示唆となるでしょう。
日本でも、エスカレーターの安全性向上と混雑緩和に向けた取り組みが進んでいますが、ロンドン交通局の実験結果も参考に、さらなる議論と工夫が求められます。