アメリカでは定年退職は違法 海外の高齢者雇用と、高齢者が若者に勝てる能力とは?

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次期総理とも目される、小泉進次郎氏の社会保障プランに注目が集まっています。小泉氏は、「現役世代」の定義を「18~74歳」に変更、年金の受給開始年齢は「80歳でもいいのでは」とうたっています。その一方で解雇規制緩和も訴えており、死ぬまで働けと促される一方で、企業はかんたんにクビにできる、そんな社会が到来するかも知れません。死ぬまで働け、でも雇ってもらえないなら「死ね」ということでしょうか…。

では実際、高齢者が働くとはどういうことなのでしょうか。高齢者の体力や知的能力は、実際のところ他の年齢層と比べてどのような水準にあるのか、また、海外では高齢者雇用についてどのような取り組みが行われているのか、そんな観点から考察してみます。

体力は60代以降一気に低下

体力: 一般的に体力は20代をピークに低下し、60代以降は特に顕著になります。筋力、持久力、柔軟性、バランス能力の低下は、転倒や骨折のリスクを高め、肉体労働や長時間の立ち仕事を困難にする場合が多いでしょう。

認知能力も激減だが、経験と知識の能力は若者に勝てる

流動性知能(新しい情報を処理したり、問題を解決したりする能力)は20代をピークに低下傾向にあります。高齢者であっても積極的に学ぶことで能力向上は可能ですが、50代、60代、70代ともなれば20代の半分以下の能力だという研究もあるほどです。

一方、結晶性知能(経験や知識の蓄積によって培われる能力)は年齢を重ねるごとに増加または維持される傾向があります。長年の経験から得られた知識やスキル、深い洞察力やコミュニケーション能力は、高齢者ならではの強みと言えるでしょう。

アメリカで定年退職制度は違法

欧米諸国では、高齢化の進展に伴い、高齢者雇用促進のための様々な政策が実施されています。例えば、

定年制度の廃止または引き上げ: アメリカでは年齢差別禁止法により40歳以上の従業員に対する年齢による差別は禁止されている。 従って、定年退職制度は違法。 また、40歳以上の退職年齢を指定した雇用契約も違法。またドイツでも年金受給開始年齢の引き上げに合わせて定年年齢が引き上げられています。

これらの国では、高齢者が新しいスキルを習得し、変化する労働市場に適応するための職業訓練プログラムが提供されていて、パートタイム勤務や在宅勤務など、高齢者の体力や健康状態に合わせた柔軟な働き方を促進する政策も導入されています。

また 企業が高齢者を雇用する際に助成金を支給する制度があるなど、高齢者雇用を促進。これらの政策により、欧米諸国では高齢者の就業率が向上しています。特に、アメリカやイギリスでは65歳以上の就業率が20%を超えており、高い水準にあります。

アジアに目を向けると、韓国も日本と同様に高齢化が進んでいる国ですが、65~79歳でも4割強が就業しており、日本を上回っています。韓国も高齢者の雇用創出を目的とした公共事業や、高齢者向けの職業訓練プログラムが充実しています。また、企業が高齢者を雇用する際に税制優遇措置を設けるなど、高齢者雇用を積極的に促進しています。

とはいえ、上記で紹介した国々でも、高齢者が働く理由の多くは、生活費の補填、足らない年金といった問題が背景にあります。生きがいのために働く老人は一部であることを忘れてはならないでしょう。

せめて高齢者が安心して働き続けられる社会を

高齢者の就業促進は、少子高齢化が進む日本において労働力不足の解消に大きく貢献しますが、体力、流動性知能は若者や壮年の人には劣ってしまいます。一方で、結晶性知能は決して若い世代には負けません。高齢者の持つ豊富な経験や知識を若い世代に伝える、そういう仕事をまかせることができれば、企業や社会全体の活性化につながると言えるでしょう。

日本では高齢者が“不幸にも働かざるをえない”社会状況になりつつありますが、働くことを通じて、高齢者の社会とのつながりを維持し、健康寿命の延伸や生活の質向上にもつながります。

どうせ働かされるなら、せめて高齢者が安心して働き続けられる社会が実現することを願うばかりです。