こんにちは。プログレアイドル・XOXO EXTREME(キスアンドハグ エクストリーム。通称・キスエク)の一色萌(ひいろ・もえ)です。
次第に上着を着なくても寒くない日が増え、春の気配が強くなってきました。
本来であればお花見や野外ライブなども楽しい時期ですが、世間は先月に引き続き新型コロナウイルス騒動に揺れています。
天気がよく心地のよい午後にもかかわらず、なんだか人通りの少ない街並みには、寂しさよりも薄気味悪さを覚える今日このごろです。
大切な催し物の多い年度末。
ライブの中止や延期で悲しむ人々の姿を見るたびに、胸が締め付けられる想いがします。
一日も早い事態の収束を願ってやみません。
一方で、最近のアイドル界ではコロナ騒動による影響だけでなく、盤石と思われていたグループの相次ぐ体制の終了・変革の報が続いています。
平成の終わりにかけて卒業・解散ラッシュがあったので、そこを乗り越えてなお精力的に活動を続けているグループはきっとこの先しばらくは安泰だろう、なんて根拠のない楽観視をしていたところに、強烈な不意打ちを食らった気分です。
ずっと続くと思っていた。
先々のスケジュールを確認しては、「また今度」が約束されていると思っていた。
だからこそ悲しい気持ちに悔いが混ざります。
キラキラ輝くステージの水面下で彼女たちに何が起きていたのか、私たちには知るよしもありません。
しかし裏を返せば、どんなことがあってもステージに立ち続けてくれていた彼女たちは本当にプロだなと、そうも思うのです。
前々から決まっていて時間をかけて準備された卒業ではなく、ステージに未練を残しながらも演者が突然去らなければならないような状況は、皆なるべくなら避けたいと願うはずです。
しかしどんなに気を配って活動していたとしても、自分1人だけで活動しているわけではない以上、結果として避けられない場合がきっと存在してしまうということに気づかされてしまいました。
今、大きな不安や問題なく日々楽しくアイドル活動している私にも、何かの弾みで憂き目が降りかからないとも限らないのです。
そう考えると少し背筋がひやっとします。
とはいえ、予測不能な事態に前もって備えることはできません。
活動をよりよい状態で長く続けることを望むなら、そのために自分にできることを最大限やっていくしかないな、という結論に達しました。
では長く続けるためには何が必要なのか?
アイドル活動をするためには運営さんやライブをする場所、楽曲を作ってくれる方や振り付けをする先生、衣装さん等々様々な方の力が必要です。
しかし、そもそも当のアイドル本人に活動する力があることが最初の条件だと思います。
アイドルが存在しなければステージは成り立たないからです。
マイクを持ってステージに立ち、「私はアイドルです」と宣言すれば誰でもアイドルになれるようなご時世とはいえ、そうあり続けるためにはいくつかの要素があるのではないか?と思っています。
思わず前置きが長くなってしまいましたが、今回は私が考える”アイドルを長く続けるために必要なこと”のうち、「キャラクター性」に焦点を当てたいと思います。
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長く続いている、もしくは多くの人に愛されているアイドルさんを見ているといつも思うのが、みなさん自己プロデュース力に長けているな、ということです。
あふれんばかりのカリスマ性で本人がどう振る舞おうと人を惹きつけてしまう、というタイプのアイドルさんもいるにはいると思いますが、きっとそういった存在は稀有で、多くのアイドルさんは日々自分の理想と現実を見比べては一喜一憂しているのではないかと思います。
メジャー、インディーズ、地上地下を問わず、私が素敵だなと思うアイドルさんを何人か思い浮かべて何か共通点を見出そうとすると、皆さん自分の理想と自分が実現可能なラインの見極めがとても上手で、具体的な存在である自分を抽象化し、より多くの人に受け取ってもらえる形に整えることが上手いなと思うのです。
それが努力や計算の結果であろうと、天然のバランス感覚であろうと、結果として自分をアイコン化、キャラクター化することができている。
例えるなら、漫画家さんがお話を考える時にキャラクターをデザインして、設定を練って、台詞を考えて……という作業を、アイドルは自分自身の体を使ってやっている、というイメージが近いかもしれません。
ただし漫画家さんと違うのは、そのキャラクターを動かして紡ぎ出されるお話は必ずしも自分の思い通りの筋書きにはならないということです。
それは他のキャラクター=メンバーや舞台、時代背景を自分で設定することができないからで、そういった偶然性もアイドルの面白いところだと思います。
そういえば。
私は異なるユニットのアイドルさん同士のコラボ作品がやたらと好きで、コラボ曲ばかり集めたプレイリストを延々聴いていたりするのですが、昔から漫画やイラストでもある作品の中に別作品のキャラクターが登場したりすると嬉しくてたまらなかったものです。
私はクロスオーバーフェチかもしれないということがたった今わかりました。
……少し話が逸れてしまいましたが。
Twitterではライブ後にファンの方がチェキやアクリルキーホルダーと共に食事風景を写真に収めている様子をよく見かけます。
私はその場に参加したことがないので一概には言えませんが、これもそのアイドルさんがキャラクター化に成功しているからこそ起こる現象ではないかと思っています。
例えば家族や恋人、友人を対象に同じようなことをしている人を私は見たことがありません。
それはきっと、家族や恋人や友人は直接親密なコミュニケーションをとることができるので、わざわざキャラクター化をしてまで生活に取り込む必要がないからです。
アイドルも直接会える存在ではあるけれど、自分の好きな時にいつでも会うことはできないしコミュニケーションの時間も有限です。
だからこそ”推し”への気持ちが強い人ほど目の前にいない時も自分の生活の一部として存在を取り込もうとするのではないでしょうか。
なんて持論を広げてしまいましたが。
実際はそう小難しいことでもなく、小さい子が「しまじろうのぬいぐるみと一緒に出かけたい!」と思うのと同じような、極めて本能的で自然な感情なのかもしれません。
直接目の前にいる人を惹きつける力と、目の前にいない時でも伝わる魅力の強度、その両方の鍵を握っているのが「キャラクター化」なのではないかと思うのです。
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しかし、自分をキャラクター化すると一口に言っても、それは単純なことではありません。
自分を構成する様々な要素から、特に強調したいものをいくつか選んで洗練する必要があります。
情報量が多いとより多くの人にアプローチできる可能性が増える半面、キャラがぶれる余地も広くなってしまうからです。
キティちゃんのリボンはどんな時でも向かって右側で赤と決まっているからこそ、皆が安心してキティちゃんだと判断することができます。
キティちゃんのリボンが黄色かったり、左側にあったりしてはいけないのです。
「ぶれないキャラのアイドル」として私が真っ先に思い浮かべるのは、元Berryz工房の嗣永桃子さんです。
”ももち結び”と呼ばれる特徴的なツインテールをして桃色の衣装に身を包み、「可愛すぎて、許してにゃん♡」とポーズをとる姿は、人々が思い描く可愛い女の子のイメージを集約して体現したような、完全無欠のアイドルでした。
彼女は2002年に10歳で芸能の世界に飛び込んでから2017年に引退するまで、ぶれることなく一貫して「ももち」であり続けました。
そして彼女は自分で退き際を決めて、細部に至るまで自身のこだわりを貫いた完璧なまでの卒業公演を全うして芸能界を去っていきました。
自分自身で生み出したアイドル像を体現し、ほとんどキャラクターとして認知を得ることを達成したのちに終わり方まで自分で決めて去っていくというやり方は、以前この連載で紹介した夢眠ねむさんとも通じるものを感じます。
嗣永桃子さんも夢眠ねむさんも、アイドルを引退した後にも尊敬していると公言しているアイドルさんが多いお二人だなぁという印象があります。
もしかするとそこには、アイドルをやっている子だからこそ感じ取れる凄みがあるのかもしれません。
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さて、ここまで散々キャラ化の重要性についてお話してきたわけですが、私・一色萌がアイドルとして自分の魅力を多くの人に伝えるためのキャラ化に成功しているかというと、現時点ではいまひとつ達成できていないと言わざるを得ません。
私の場合、キャラクターとして最も際立ててアピールすべきことは最初から決まっていました。
「アイドルヲタクのアイドル」というキャラクターです。
誤解してほしくないのは、これは私がアイドル好きだと言うことは自分がアイドル活動する上での設定にすぎないということではないということです。
キスエクに入る段階から「なるべく長く続けるぞ」という気持ちがあったので、最初から私自身が無理なく続けることができるキャラクターを目指そうという意識がありました。
そして長く続けるにあたってなるべく自分に負担をかけない、無理のない方向で自分をキャラクター化しようと考えた結果、生活のほとんどを占めていたアイドルヲタク活動の他にアピールすることがない!と気が付いてしまい、ほぼ素をそのままさらけ出すということになってしまいました。
ほぼ素ということは、素の状態をコンテンツとして成立させなければいけないということです。
ぶっちゃけ特筆するようなことのない平凡な女ヲタクの私にとって、これはまぁまぁ大きな課題として立ちはだかることになりました。
今時アイドルが好きなアイドルさんはゴロゴロいて、あえてそれを個性として押し出している人はあまりいません。
むしろアイドルが好きでアイドルになっているのが当たり前だから、アイドル以外の趣味がキャラ付けには効果的と言えます。
私にもアイドル以外に好きなものはたくさんありますが、アイドルとして致命的に自信のない私が唯一自信を持てることがあるとしたら、きっと他の誰よりもアイドルの情報を日々チェックしていて、音源を聴いていて、ライブを見に足を運んでいるだろうということでした。
しかしそれを長く続けること前提のキャラにするということは、途中で「やっぱアイドル飽きちゃった」は絶対になし、ということになります。
私は一色萌である限り”誰よりもアイドルヲタクなアイドル”であるというキャラを守ることを自分に課したのです。
そもそもこれが素の趣味なので義務感に苛まれるようなことは今のところ全くありませんが、ただの趣味だった私のアイドルヲタク活動にはそういう文脈が生まれました。
そしてアイドルヲタクのアイドルとして認知され、親近感を持って応援していただけることはとてもありがたく嬉しいことです。
嬉しいこと、なのですが。
どうも調子に乗ってアイドルヲタクな面をアピールするほど、アイドルとしてよりもヲタクとしてのキャラクターが強化されてしまい、アイドル視されにくくなるというジレンマに陥ってしまいました。
こちらの解決策は未だ見出せないままです……。
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結局のところ、アイドルを長く続けたいならキャラ化せずに売れる方法を探すか、もしくはなるべく長く持続可能なキャラクター形成をすることが必要だと私は思います。
キャラ化せずに売れる方法とは要するに技術や容姿など可視化できる要素で抜きん出ることですが、そこを極めるのであれば必ずしもアイドルである必要はなくなってしまうかもしれません。
アーティストや女優、モデルなど自分の得意分野に特化して活動した方が、大舞台での活躍の場が広がると思われるからです。
アイドルは技術が全てではなく、そのパーソナリティまで込みでパッケージされたコンテンツだからこそ、キャラ付けがとても大事なのだと思います。
少なくとも私はそう認識しています。
アイドルは若い女性が短期間やるもの、という固定観念が明らかに崩れ始めて10年前後の月日が経とうとしている今。
アイドルは持続可能か?という問いは、アイドルさんが一度一線を退いた後に新しいグループに所属してデビューしたり、結婚の報告をしたりするたびに持ち上がります。
持続可能なアイドルという市場自体が新しい、というかまだ確立されていないから、なるべく長くここにいたいと願う私たちは道無き道を進むことになります。
誰がどんな風に、どういった方法で道を切り拓いていくのか。
アイドルとしてもアイドルヲタクとしても、興味深く見守っていきたいなと思っています。
【プロフィール】 一色 萌(ひいろ もえ)
ニックネーム:萌ちゃん、萌氏、誕生日:5月27日、出身:東京都、血液型:A型、趣味:アイドル研究、特技、アイドルについて話すこと
WALLOP放送局「キスエクのギュッと!プログレッシヴ!」レギュラー出演中(2018.4〜)
https://twitter.com/xoxo_extreme
https://www.youtube.com/channel/UCA7fn3DZFJGDmlxZZg8WQVA
Email : contact@twelve-notes.com
【グループプロフィール】
XOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム 通称:キスエク)
一色 萌・小嶋 りん・浅水るりの3名からなる、プログレッシヴ・ロック(略:プログレ)※をモチーフとした楽曲をパフォーマンスしているアイドル。
※特徴として、曲調がよく変わる・曲が長い・変拍子が多い、といった点が挙げられる。
2017年に、発売したシングル「えれFunと”女子”TALK〜笑う夜には象来る〜」に対して(キング・クリムゾン「エレファント・トーク」オマージュ)元キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューがその動画に「I like it!」とコメントで絶賛。
ライブ活動の他、ディスクユニオン新宿プログレ館で一日店員を務めたり、プログレファンの聖地である吉祥寺シルバーエレファントに、アイドルとして初出演。
2019年にフランスを代表するプログレバンドMAGMA公認カヴァー曲の「The Last Seven Minutes」を初披露。その動画がyoutubeにアップされると、カヴァーを公認したMAGMAが、公式Facebookで紹介したこともあり、一日で2000以上の再生数を得て話題になる。
翌2019年には、日本のプログレバンドの雄、金属恵比須とのコラボレーションで、90年代プログレを代表するスウェーデンのバンド、ANEKDOTENの「Nucleus」を公認カヴァー。
同年7月25日には2バンドを擁してのセカンドワンマンライヴを渋谷WWWにて行った。
都内を中心にライヴ活動を行なっており、プログレッシヴ・ロックを知っている人も知らない人も楽しめる、と好評を得ている。