2018年が終わり、キリンビールがビール会社の意地を見せたと話題となった「本麒麟」の大ヒット。徹底したクラフトマンシップから生まれたビール系新ジャンルは多くのビールファンのハートを鷲掴んだが、その味が、本来のビール臭さ・苦さが際立つ本物志向だったのに驚いた。そんな『本麒麟(ほんきりん)』が早くもリニューアルするというので飲んでみた。
子供が興味本位で父親のビールをちょっと舐めて「苦〜い!」と顔をしかめた時代のビールの魂を受け継いだコスパ最強の本格派に変化の余地はあるのか?
「こんな苦いものが美味しいなんて、大人ってヘン!」と子供からディスられるのが、昭和の時代のビールのお約束だった。時代は変わり、90年代バブルの時期には、ビール臭さを排除して爽やかな飲み口の「アサヒスーパードライ」が大ヒット。
以降、ビールの味は迷走を始める。記者の感覚としては長きにわたって、ビール嫌いを振り向かせるためにビール好きの人の嗜好を二の次にしていた、そんな印象さえ抱いていた。中でも第三のビール、新ジャンルと呼ばれるものは特に、必要以上に甘みがあったり、不思議なケミカル感を感じるものも多かった。近年ではさらにフルーツと合わせるビアカクテルなど、さらにビール嫌い女子まで照準に入ってきて、それはそれでありだが、肝心なところが置き去りにされている気がしてならなかった。
そんな現状を打破したのが、2018年3月登場の「本麒麟」。新ジャンルに属するビール系飲料でありながら、その飲み口といったらギリっと苦くて飲みにくく、アルコール度数も高めなまさに”飲んべえ”が大好きな往年のビールの味わい。大麦由来の深みのある香ばしさが、まさに大人の味わいだとびっくりしたものだ。
そもそもビール好きな人にとっては、爽やかなキレや飲みやすさというものだけが魅力なわけではない。もっとしっかりホップを効かせた苦味を我慢しつつグビリと飲み干して「クゥーッ」と言いたい人がたくさんいるはずなのだ。しかもできるならコストを下げつつ。実際にそうした人が多かったという事実は、「本麒麟」の大ヒットで証明されたと思う。
そんなビールならではのクセの強さを好む大人のビール好きのハートを射抜いた「本麒麟」が早くもマイナーチェンジのリニューアルを行った。キリンビール『本麒麟』(350ml・参考価格 税込145円・2019年1月中旬製造品から順次切り替え/500ml・203円もあり)、名前も同じ。パッケージもほぼ間違い探しレベルの微妙なチェンジ。あえて重箱の隅を突くように比べてみると…。記者は8箇所見つけられた。
- 中国の想像上の生物・麒麟モチーフの聖獣イラストが大きくなった。
- その下の「KIRIN BREW」の文字が大きくなった。
- イラストを囲む金色の帯の文字が小さくなった。
- アルコール度数の数字が大きくなった。
- 「長期低温熟成」の文字が小さくなった
- 「長期低温熟成」の帯が短くなった
- その下の欧文のフォントが変更になった
- 赤と金色の色味の変化
初年度出荷3億本突破のNo.1製品のリニューアルポイントは、贅沢なドイツ産ヘルスブルッカーホップの増量!
まあ外見もいいが、それより肝心なのは味だ。旧『本麒麟』はビール臭さの強い罪深い香りと味と苦味が特徴だったが。
「お客さまにとっての”一番うまい!になる”ことを目指し、”ビールらしい卓越したうまさと品質”を一層強化しました。昨年は販売目標を大きく上回りましたが、まだお客様の認知状況は半分程度。まだご存じない方にぜひ飲んでいただきたいですね」
(キリンビール 広報)
今回のリニューアルでポイントとなるのは、130年ビールを作り続けてきたキリンビールがラガー(低温熟成)ビールの製法をベースに開発された「本麒麟」の味わいを、さらに本格的なビールに近づけること。
そのために行ったのは、低温熟成期間1.5倍はそのままに、力強いコクと飲みごたえのためにキリン伝統のドイツ産ヘルスブルッカーホップ(一部使用)を増量したところにあるという。
それでは期待を込めて、飲んでみよう。もちろん人間の記憶というのはあてにならないので、旧「本麒麟」と飲み比べてみる。まずは旧「本麒麟」。「ビールくさっ」という個性に苦味、さらっとしていてキレがある、上質なビールテイストはやはり美味しい。
そして問題の新生『本麒麟』。あれ? 飲みやすい。苦味がこなれてスムーズ感が増した印象。ホップ量を増やしたというからものすごく苦くなっているかと思ったが、むしろマイルドでふくよかな味わいに。ただギリっとした苦さが控えられた分、穀物由来のビールならではの芳醇で温かみのある味わいが際立ったように感じる。
これがマスターブリュワー・田山智広氏のいう「飲みごたえがありつつもデイリーに飲みたくなる飲みやすさ」なのだろうか。確かに主張は少しだけ奥まった気はするが、芳醇さは増した印象。毎日飲んでも飽きない美味しさという意味ではこれがベストレシピなのかも。
実際問題として、記者も記事作成の際にはワン・オン・ワン的に味を検証してしまうが、通常の飲まれる現場としては様々なノイズやつまみ、料理などの要素が複合して味わうのがビール及びビール系新ジャンルだろう。そう考えるとあえてクセを奥まらせたこの味仕立ては正解と言えるんじゃないだろうか。
ただ基本線としては、しっかりビール味、キチッと苦くて芳醇なコクという「本麒麟」の王道は外していないので、従来のファンも安心して飲めるはず。しかしこれだけ大人気の商品なのに、未だ認識率が半分ということはまだまだ伸びしろがあるわけで…。今後の『本麒麟』の成長ぶりはすごいことになりそうだ。
入手は全国の酒類取扱店などで可能だ。