こんなにシンプルで、10分くらいでクリアできて、ただし高難度で、そしてラストがこんなにも美しいゲームがあっただろうか? そう世界にいわしめた『DON’T LOOK BACK』(ブラウザ版、iOS版ともに無料)。
■死の世界で振り返ると、恋人の魂はこなごなに
ストーリーは雨のふる墓地からはじまる。恋人の墓の前にたたずむ男が、その魂をもとめて死の世界へ行くというものだ。様々なトラップ、悪魔、地獄の番犬などをくぐりぬけ魔王を倒し、恋人を取り戻す。
右スクロールで右に進んでいくこれがゲームの前半であり、左スクロールで左進みとなる後半は、彼女を連れて地上まで戻るのだが、ここからがタイトルの「後ろを振り向くな」のゆえん。
けっしてキャラクターを後ろ(右)にむけてはいけないのだ。悲鳴とともに、恋人の魂はこなごなに消え去ってしまう。
ゲームは、ギリシャ神話のオルフェウスがモデルになっており、日本ではイザナギが妻・イザナミを黄泉の国へと迎えにいくあれ。振り返ることは、愛する人を二度ととりもどせないペナルティをおうのだ。そんな難しい設定をクリアしながら地上に戻るのだが、そして待っていたものが…つらい。
■「死にゲー」と「死の世界」という世界観のリンク
このゲームはいわゆる「死にゲー」と言われるもので、コンティニューが前提になった高難度作。そんな意味では「クソゲー」でもある。ただし内容はかなりショートなので、慣れれば10分程度でクリアできるが、はじめはとにかく難しく筆者は1時間ぐらいかかった。推定死亡回数は500回! ただし死ぬ度、寸前からさっくりできるので、テンポは良い。
システムと難易度自体が、ストーリーにリンクした強い意味を持っている。恋人の死を受け入れられない、死にあらがうストーリーで、またシステム自体も何度も死んでよみがえるというわけで、そこに二重の意味を持っているのだ。
■「振り返るな」をゲームの形で伝える
そして肝心のここからはネタバレになるので、要注意。
エンディングで恋人の魂をつれて墓地の前までもどってくると、そこには主人公と同じ人物がいる。それを見た瞬間、主人公も恋人の魂もこなごなに消え去ってしまうのだ。そして画面は一番はじめに戻り、主人公は恋人の墓の前にたたずんでいる。またゲームがはじまって同じことが繰り返される。
製作者・Terry Cavanagh氏によれば、この冒険自体が男の中の妄想なのだ。だから墓の前にずっといた自分に気づいた瞬間、その妄想/冒険は消え去ってしまうのだ。
恋人の死を受けいれずにいる男が、ゲームという無限にループする世界の中、恋人を取り戻し、妄想に気づき、また恋人を取り戻しに行く。この永久のループ自体には救いはない。ただゲームの構造をもって、ユーザーに『DON’T LOOK BACK』(振り返るな)というメッセージを伝えるのみなのだ。
恋人をとりもどしに死の世界(右)に向かうことは「振り返る」ことであり、魂を取り戻して生の世界(左)に行く途中も、「振り返る」(右)ことは禁じられる。ゲーム製作者の『振り返るな』というメッセージが、世界観と構造で伝えられているものなのだ。
誰だって哀しい思いからは逃れられず、忘れていたって何年もたった後、ふと喪失感におそわれる。振り向くな、なんだけど振り向いてしまう。だからこそ、このゲームをクリアしたあとちょっと泣きそうになってしまうのだ。
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文/高野景子