■地元民でも名前を知らない店
地元のお客たちがひっきりなしに訪れる、都内にある麺と定食のラーメン店。だが客に店の名前をたずねても「…知らない」とみな答える不思議なところがある。
会員制の知る人ぞ知る店…なんて気取った話ではなく、本当にほとんどの客が店の名前がわからないのだ。本当に店に看板がない、“名無し”なのだ。
■怪しすぎて入りづらい
これは東京のJR中央線・三鷹駅から徒歩10分ほどにある。だだっぴろい道路を歩いて行くと工務店のような建物で、看板もなにもなく、ただガラス張りの扉に「営業中」と札がかかっている。
だがガラス戸はスモークになっているし中の様子はわからないため、とにかく入る気にならないのだ。だがサラリーマン風のおじさんや、現場作業着を着たあんちゃんたちが頻繁に出入りしているので、勇気を出して中に入ってみると、
「いらっしゃいませ〜」とこじんまりとした、いかにも町のラーメン屋。店構えのような怪しさはみじんもない。チャーシュー麺を注文するとすぐに運ばれてきて、すすってみると、肉々しいチャーシューも落ち着いた味のラーメンも美味しい。
隣の人が食べているしょうが焼き定食も、タレのいいにおいがしてきて、気になってしまう。ラーメン、定食の美味しそうな香りが外にももれるのか、客入りも切れる様子がない。
■名前がないのでツイッターにも書き込めない
満腹満足で店を出たのだが、名前がないためにSNSにも書き込めないありさま。人にもとっても説明しづらいし。
だが、先日知人と話している時に「え、あの店名前あるよ」とのこと。でも写真の通り、どう見ても名前はないのだ。そこで再訪してみると外には看板がないのだが、なんと店内のすみっこに「らーめん ぺぺ」と書かれた看板が置いてあった! 名前は「ぺぺ」なのだ。
外に看板がなく、また店内にひっそりと看板があるために店名がわからなかったわけだ。
■地元との摩擦回避で“名無し”になった
「近隣との兼ね合いで看板を出せなくなったと言われています。でも味がいいのでみんな来ている」(地元住民)
とのことらしい。たしかに出している料理はちょっと控えめさを感じる渋い味、奇をてらうわけではなくまっとうに美味しい。だからこそ“名前がない”というトリッキーな店そのものとは大きなギャップを感じてしまう。
「だけど、おじちゃんおばちゃんもいつも一生懸命料理を作ってる、名前なんて関係ないとばかり。応援したくなりますよ。でも、なによりやっぱり味がいいから。で、店名はなんでしたっけ(笑)」(前出・住民)
という、なんだか素敵な店なのだ。怪しいとか思ってごめんなさい。
文/高野景子