東京の下町に、関西人のおかみさんが焼く美味いたこやき屋があって、この店のそうめんは隠れた名品と言われている。ありえなそうな取り合わせだが、たこ焼きをつっつきながら、そうめんを食べると、これが絶品! 過ぎ去った夏が戻ってくるような、美味しくて幸せな気分にひたれるのだ。
たこ焼き屋なのにそうめんが美味いのは、江東区・東陽町にある「大阪たこやき てるちゃん」。
サラリーマンにはちょっとむずかしい時間だが、午後4時ぐらいが楽しい。学校帰りの子供たちが「こんにちわー」とあいさつし、おかみさんが「おかえりー」なんて言っている、そんな風景をみながら、たこやきがつつける。他にも近所のおばちゃんが声をかけて言ったり、“ドラマみたいな下町”が、本当にあるのだ。
イスが5つほどしかない店内は、油のにじんだたこやきのぬいぐるみがあったり、空気でふくらませたタコのビニール人形があったりとか、昔近所にあったスナックフード店や駄菓子屋のような、古くさくてかわいいインテリアがある。色紙に書いたメニューには、大阪人にはなじみぶかいイカ焼き、たこやき、他にもぞうすい、にゅうめんなんてものがある。たこ焼きは8個で400円、12個なら600円。
「どれ食べても、80年代とか90年代のモダンレトロな美味しさがあります。たこ焼きは昔の京たこのような、もったりねっちりした味わい。銀だこなどのオラオラ系な味に慣れた我々には優しく感じます」(フードライター)
本当にそうなのだ、たこ焼きは“そうそう昔はこんなんだった”っていう、いい味。いつの間にか銀だこのようなたこ焼きに慣れてしまっていたが、こういうたこ焼きも、こんなに美味しかったんだ!とびっくりさせられる。
そして同時に出てくるのが、氷たっぷりの水で冷やしてあるそうめんだ。これで500円。そうめんって外で食べると800円とかけっこう高くって二の足をふむけれど、安心して頼める値段。おかみさんは「京風の本格の味」と言っているが、家の冷蔵庫でキンキンに冷やしてあるだけの、どっかのメーカーの出汁っぽくて、これが美味しい。
家で食えよと言われそうだけど、外で誰かが作ってくれたフツウなそうめん、むっちゃいい。
そしてたこ焼きと、そうめんを交代交代で食べていくのだが、これが合う。たこ焼きの強い味をそうめんで洗い流して、ちょっと箸と口にのこったソースの風味がまじったそうめんをすする。ソース味のそうめんは美味しくないだろうけど、これは美味しい。
おかみさんの笑顔も可愛いし、店の情緒のあるところもいい。でもそういう“味わい”な話だけじゃなくって、このたこ焼きとそうめんのびっくりする相性がとってもすてきなのだ! ちなみにビールもあると3倍のおいしさですよ。
文/関本尚子