東京でもっとも遅く、もっとも美味い店
東京のラーメン店のなかで、席についてからメニューが出てくるのが「もっとも遅く、もっとも美味い」と言われている店がある。1948年創業、東京古典ラーメン界のゴッドファーザーと言われる丸長荻窪店だ。
かつて店の入り口には「当店は非常に時間のかかkる店です。ラーメン一杯・つけそば一杯でも30分位上かかる事があります。時間に余裕のある方のみお入りください 誠に申し訳ございません」という丁寧な断り書きが書かれていたほどだ。
行列店なので座るまでに時間も
東京は中央線・荻窪駅から徒歩3分ほどのところにあり、オレンジ色のほろが目印。昼時に行くと、店内は満席で表に2、3人のお客さんが待っていた。だが、さすが「もっとも遅い」と言われるだけあって、客の回転率はわるそう。なかなか席が開かないのだ。おまけに、ビールとしゅうまいなどをゆっくりと楽しむ年配の方などもいるので、席は余計にあかない。
20分ほど待ってようやく席に座って厨房を見ていると。60は越していそうなご店主がつけ麺用のスープを作っていた。
謎の液体を丁寧すぎるほどに混ぜていた
テーブルの上に用意された8つほどのスープ用の器に、コショウ、タレ、黒いなぞのペースト状の液体、ネギなどを手際よく入れていくのだが、その最中にレンゲでゴリゴリ、ゴリゴリ…と丁寧に混ぜる動作が入る。レンゲで混ぜたあと、今度はもっと小さいスプーンで、またゴリゴリ、ゴリゴリ…と丁寧に混ぜるのだ。
きれいな動きで手際はいい、だが丁寧に丁寧にまぜており、時間がゆっくりゆっくりと立つ。店内には『徹子の部屋』で黒柳徹子さんの嬌声だけが大きく響いいていた。その間もゴリゴリ、ゴリゴリと。
また麺を茹でるお湯は、まめに捨てて沸かしているために、このお湯のわかし時間も換算され、それも「もっとも遅い」の名を高めているようだ。ドロッドロのお湯でゆでた麺は出したくない、そんな丁寧さをここにも見ることができる。
本当にメニューが出るまで30分
そして待つこと本当に30分。着席してから、本当に30分もかかったのだ。とはいえご店主が丁寧に丁寧に作っているのは見えている、なんの不満もない!
そしてついに出てきたチャーシューつけ麺(980円)。麺もじっくりとゆでで熱を通しているために麺のしんまで柔らかくゆであがっており、ソフト麺どころか絹ごし豆腐のような口当たり。しかし、麺という形を保っているのだから実に不思議だ。
そしてスープはコショウと山椒のような辛味がたった実に刺激的な味なのだ。店主のゆったりとした優美な動きからは想像もできないようなスパイシーさ。むしろ薬膳に近いぐらいなのだ。このスープでとろけた麺を食べると、実に不思議な味覚体験となる!
海外旅行に行くような満足感!!!
香港の怪しい漢方薬屋で店主が調合してくれた謎のお茶を飲む、ような感じがするのだ。新宿から電車で10分ちょいで、ちょっとしたトリップ体験ができるなんて、素晴らしいのは間違いない。この夏休みどこにも行楽に…という皆さんにはぜひともおすすめの良店ですよ〜。
文/関本尚子