コスパにばかり気を取られ、あまりじっくりと味わうことのないチェーン店のメニューたち……シリーズ「チェーン この逸品」では、そんな”埋もれた”ごちそうをたっぷりと紹介します。
元会長をめぐる報道が活発だが……
ワタミフードサービスの居酒屋の多くでお通しとして供されるこのメニュー。ざく切りしたキャベツにごま油をかけ、塩昆布を散らしただけのシンプルな一品だ。
この記事ですでに指摘済みだが、このお通しは税込で367円。吉野家の牛丼(並)(280円)、サイゼリアのミラノ風ドリア(299円)等々、他店の主食をも超える価格である。この”気づき”があると無いとでは、噛み締めるほどに広がるキャベツの甘みにも違いが出てくる。この料理を楽しむための必須の予備知識といえる。
大雑把なようでいて計算されている?
無造作に散らされた塩昆布。複雑に混ざり合った塩気、旨味、酸味の三者が、ほぼ同時に、しかし微妙に時をずらしながら一斉に舌を刺激してくる。
塩昆布が舌に触れた瞬間、少し味が濃いかな、と感じるが、直後にごま油が舌を優しく包んで味覚神経をガード。遅れてきたキャベツの水気で味は薄まり、神経信号が脳に達する頃には、ちょうどよい塩梅となる。生理学など知らないが、そんなイメージだ。
キャベツと塩昆布の表面積の圧倒的な差が、この時間差を生み出す。何らかの味が均一にキャベツについていたとしたら、この絶妙な味の波状攻撃は出せないと思われる。計算の上で設計されているとしたら、恐ろしい話である。
断るなどとんでもない
聞けばこのお通し、断ることができるらしい。367円、キャベツ、牛丼、ミラノ風ドリア、キャベツ……確かに悩ましい価格設定ではあるが、この値段も含めて(むしろこの値段だからこそ)、じっくりと味わって欲しい。きっとその日のワタミの晩餐は、楽しいものになるに違いない。
文/柳琢磨